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1832年の初演はミラノ、カノッビアーナ劇場。ガエターノ・ドニゼッティ作曲のオペラ、「愛の妙薬」。舞台は19世紀のスペインはバスク地方の小さな村。どんな相手でも恋に落とせるという惚れ薬、しかし実際はラベルだけ張り替えられていた安物のボルドーワイン。そんな事もつゆ知らず妙薬の効果を信じワインを飲んだ若い農夫ネモリーノが、美しい村娘アディーナを本当に恋に落とし、やがて二人は結ばれるという物語。 2003年、舞台は日本。このオペラの物語にデフレ脱却のヒントがあると、当時の内閣総理大臣、小泉純一郎氏に暗喩したのは、イェール大学名誉教授で現・安倍政権下において内閣官房参与を務めておられる浜田宏一氏でした。つまり長く続くデフレに対して処方可能な金融、財政政策は限られてはいても、「今回は違う、何かが起こるかもしれない」という国民の期待、或いは変化への予感を醸成することこそが重要であるというお考えに基づいての提言であったのでしょう。 2014年、様々な評価はありますが、安倍政権が打ち出したアベノミクスが国内外に大きな期待を作り、株価、為替レート、物価上昇率、失業率や有効求人倍率などの雇用指標などにも具体的な果実をもたらし始めているのは事実です。村娘アディーナが、以前は全く眼中になかった農夫ネモリーノに恋に落ちたのは事実のようです。この人ならば私を幸せにしてくれるのかもしれない、という期待形成には成功したと言えます。 さてこのアベノミクスという物語でアディーナとネモリーノが結婚できるのか、ここにはまだ様々な条件が必要なようです。まさに「惚れ薬」といってもよい金融緩和、そして財政出動が可能な間はよいとしても、いずれは妙薬なしに民間の需要が持続的に拡大し、それに応じた供給能力が向上しなければ、物語はハッピーエンドとはなりません。 そこで昨今軒並み注目を集めているのが第三の矢、「民間投資を喚起する成長戦略」です。しかしこれが大変です。去年の6月に日本再興戦略という成長戦略を出したわけですが、マーケットはこれに落胆、記者会見の最中に株価が下がりはじめてしまいます。そこで安部首相と黒田日銀総裁は会談を開き、総裁が「日銀としては量的・質的金融緩和を進めていって日本経済をしっかり支えていきたい」と首相に伝えたことが市場に広がると株価は一気に回復します。その後、昨年秋は「成長戦略国会」のはずでしたが特定秘密保護法案国会となってしまいました。そこで今年1月から始まった通常国会を今度は「好循環実現国会」と名付けインフラ投資に官民一体で取り組む「インフラ輸出機構」、イノベーションを促進させる研究開発法人制度を新設、「経済社会を一変させる挑戦的な研究開発を支援する」と打ち出しましたが株価の反応も鈍化、年始からゴールデンウィーク明けの株価で比べると1割強下げています。 そういう経緯での6月に打ち出される成長戦略ですから、ここは相当期待が高まっています。 成長戦略の主なチェック項目は以下のようなところでしょうか。 (1) <企業の競争力強化>日本企業の海外脱出を防ぎ、外資を日本に呼び込む法人税の引き下げ、TPP(環太平洋連携協定)妥結に対してどういう道筋を描けるか (2) <金融>約130兆円の公的年金資金の運用、リスク管理指針。 (3) <特区>国家戦略特区をどれほど大胆に「特別」にできるか。中途半端な「特別」には意味がない。 (4) <労働>生産性の低いところから高いところに雇用の流動性を高める大胆な労働規制の緩和、「女性にとって働きやすい環境」はどこまで整備されるのか。育児休暇3年の実現性と配偶者控除。 (5) <農業・医療・電力>参入障壁、規制をどこまで取り払えるか? (6) <財政>厳しい財政状況の中にあって社会保障改革がどの程度進むのか、具体的な数値目標を盛り込めるか。日本に投資する外国人、外国法人にとって大きな関心事。 さて、オペラ「愛の妙薬」の物語、ネモリーノは一本目の惚れ薬(平凡なボルドーワイン)を飲み干し、アディーナの心をさらに惹きつけようとしますがお金がありません。彼はお金を得る為に命を投げ出し軍隊に入隊し契約金を手にしようとします。物語の最後は、そんなネモリーノの熱意と愛情の深さにアディーナは心を打たれ、やがて二人は結ばれます。 さて「愛の妙薬」、第一、第二の矢は、やがて妙薬がなくとも自分自身で所得を生み出し自律成長できるステージへと誘うことができるのか、農夫アベノミクスは大きな転換期を迎えています。
by smkwkm321
| 2014-06-05 03:56
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